2、3日前に連れて行ったときは、そんなこと一言も言われなかったのに...。
そんでもって、「黄疸が出てますね、皮膚の色も黄色いし、目の白目の部分も真っ黄色じゃないですか。これはもう、末期的な状態なんですヨ、」とまたセンセに叱られた。
つづく...
あおむし
そうなのだ。おいら、またしてもミケコはんの体調の変化に、まったく気付いてやることができなかったのねん...。
つづく...
あおむし
「今更手遅れだけど」と言わんばかりに、センセに勧められて受けた血液検査の結果は、落ち込むおいらに更に追い討ちをかけるものだった。
つづく...
あおむし
「血液検査と一緒に猫エイズの検査もしてみたんですが、残念ながら結果は陽性でした。」センセの放った言葉が、狭い診察室の壁にぶつかり、やまびこのように跳ね返って、おいらの耳に突き刺さった。
つづく...
あおむし
センセの説明によれば、猫エイズとは人間のエイズに似た血液が侵される病気で、肝臓が悪くなったのもそのせいではないか、ということだった。
つづく...
あおむし
ミケコは室内飼いで、庭にちょこっと出る以外は殆ど表に出たことも無かったから、ケンカなどに巻き込まれて他のネコから感染した可能性は低いんではないか、とのことだった。
つづく...
あおむし
それに、ミケコはんは元々池袋だか練馬だかの畑に捨てられていたところを、幸か不幸か拾われて我が家に来たことから、おそらく彼女の母親が既にこの病気を持っていて、従ってミケコも生まれながらにして病気を持っていた可能性が高いんではないか、と説明された。
つづく...
あおむし
ただ、この病気は病気の因子を持っていても、発病しなければ普通に生活ができるんだそうで、中には発病しないまま、生涯を終えるケースもあるんだとか。センセの飼っていたネコは、同じ病気であったんだけれども、発病しないまま18歳まで生きて、老衰で亡くなったとのことだった。
つづく...
あおむし
発病しないケースもあるってのに、なんでミケコはんが...。
んでもナ、確かにウチは決して生活環境のイイ家ではなかったかんナ。
つづく...
あおむし
悔しく思いつつ、発病してしまった以上は、なんとか残された時間を少しでも苦しく無いように過ごさせてやりたい、そんな気持ちになったおいらだった。
つづく...
あおむし
こうして翌日から、食べ物を一切経口摂取できなくなってしまったミケコはんに、点滴によって栄養補給と投薬治療を行うための通院が始まったのねん。
つづく...
あおむし
ミケコはんが少しでも苦しまないように、やれることは何でもやろうと誓ったおいらだったんだけれども、実はこの通院が意外に大変...だったりするのヨ、いや、マジで。
つづく...
あおむし
というのも、そもそもウチのミケコはんは、かなりの暴れん坊将軍で、人間に体を触られるだけでも、ものすんごく怒るのヨね。
つづく...
あおむし
なので、それまでも病院に連れて行くだけで大騒ぎだったし、爪でさえ我が家で切ったことなんかなかったのに、それが毎日病院通いが続くもんだから、そりゃあもう大変なのねん。
つづく...
あおむし
大体、こういう暴れん坊なネコはんは、「洗濯ネットに入れて連れて来て下さい」って病院でも言われるみたいなんだけど(ウチも言われた)、暴れん坊将軍なだけに、その「洗濯ネットに入れる」という作業だけでも、大変だったりすのであーる。
つづく...
あおむし
ちなみに、これはまだミケコはんが「猫エイズ」と診断される前のことなんだけれども、こんなことがあったのねん。
つづく...
あおむし
その日は女王様がおいらの姉である姫に呼び出しを食らい、その姫の子供の面倒を見に朝からソソクサと出掛けてしまったため、おいらがミケコはんを洗濯ネットに入れ、カバンにつめて病院に連れて行く大役を仰せつかったのヨ。
つづく...
あおむし
その頃ミケコはんは既に食欲がなく、2、3日ほとんどエサにも口を付けない日が続いていたので、体力が落ちてそれほど抵抗されないかナ、とかすかな期待を抱いていたんだけれども、おいらのその淡い期待はもろくも崩れ去ったのだった...。
つづく...
あおむし
その朝は、毛布の上で丸くなって寝ていたミケコはんだったが、なんとなく気配を察したんだろうか、おいらが洗濯ネットの用意を始めると、おもむろにムクッと頭を上げてこちらを見ているではあ〜りませんか。警戒警報発令なのねん。ひいいいい!
つづく...
あおむし
んでも、まだジッとしてるから大丈夫だろ、と思ったおいらは、ミコはんの上から洗濯ネットを被せ、チャックの端と端を両手で持って、ミコはんをすくうようにして、彼女を洗濯ネットの中に納めようとしたのねん。
つづく...
あおむし
そしたら、である。
無理矢理洗濯ネットを手前に引き寄せたからだろうか、異変を察知したミケコはんが、とたんにシャアーーーッッ!!と威嚇を始めたではないのヨ...。
つづく...
あおむし
それでも、どうにかミケコはんに洗濯ネットを被せた状態で、ネットの口を手前に引き寄せることに成功したおいら。「あと一息」とばかりに洗濯ネットのチャックを閉めようとした、その瞬間だった。
つづく...
あおむし
フウウウウッッッシャアアアアアッッ!!のかけ声よろしく、ミケコはんは、右手でチャックを閉めようとしていたおいらの左手に、洗濯ネットの開いた口の隙間から、鋭い一撃を食らわせたではないかアアアッッッ!!
つづく...
あおむし
彼女の右ストレートは見事に命中!おいらの左手人指し指の、ちょうど根元の辺りに、ミケコはんの爪が突き刺さったのねん...。
ぎゃぼおおおっっっ!!!
つづく...
あおむし
「なんてことするのぢゃ、オマエ、痛いではないかああっっ!!」と思わず怒鳴ってしまった、おいら。
つづく...
あおむし
あのなああああっっっ!猫エイズってのはなああっっ!人間には伝染らないからイイけどなああっっ。もしオマエがかかってる病気が人間に感染するようなんだったら、どうするんぢゃああっっっ!!
つづく...
あおむし
あ、そう言えば、ミケコはんの病名がはっきりした後、女王様が殿に一体何の病気なのかと聞かれたんだそうだ。そんでもって、彼女が「猫エイズだって」と告げると、殿は一言「それは人間に感染するのか?」と聞き返したらしい...。
つづく...
あおむし
ったく、そんなに自分の身の安全が心配なんですかあ?んまあな、何しろ殿は自分の寿命をちびっとでも延ばすために必死だかんナ。毎日1時間のウォーキングは欠かさないし、食生活にも細心の注意をはらっている...つもりらしい、本人は。
つづく...
あおむし
おいらには、どう見ても塩分過多の食生活にしか見えないんですけど、ね。カップラーメンなんかも、しょっちゅう食べてるし。そんな食生活のどこが健康的なのか、おいらにはよく分からないんだけど、ね。おっと、随分話が横道にそれてしまった。元に戻そう。
つづく...
あおむし
さて、おいらに怒鳴り飛ばされて逆上したミケコはんは、パニック状態に。ンギャアアオウウうう、と奇声をあげながら左右の連打を繰り出しての猛反撃。
つづく...
あおむし