んでも、もしも彼女が話しているのが本当に中国語だとしたら、漢字は多少分かるんではなかろうか。そんでもって、もし漢字が分かるのなら漢字を使った筆談で、なんとかコミュニケーションが取れたりなんか、するんではなかろうか?
つづく...
あおむし
おいらの頭の中に、もう10年以上も前のことになるんだけれども、マレーシアのティオマン島という所で、シンガポールからやって来ていた数人の少年らと、紙切れに漢字を書いた筆談のやりとりで盛り上がった夜の記憶が、ほんの一瞬よみがえった。
つづく...
あおむし
おいらは、こんなこともあろうかと、普段からカバンの中に入れて持ち歩いていた紙とペンを、ダメ元で恐る恐る中国人のオネーチャンに差し出してみた。
つづく...
あおむし
すると彼女は、おいらが渡した紙に何やら書いてくれた。近くに建っていたマンションの外灯の明かりの下で、その紙を見てみると(辺りはもうすっかり暗くなっていたので)、そこには見覚えのある漢字が並んでいたのねん。「上高井戸」。紙にはそう書いてあった。
つづく...
あおむし
おいらが顔を上げると、オネーチャンの顔には不安そうな表情が浮かんでいた。
その不安そうな表情から察するに、おそらくこの中国人(多分)のオネーチャンは、上高井戸に行きたいのだが道が分からん、ということなんではなかろうか。などと思っていたら、彼女はおいらの手から紙を奪って、また何やら書き始めたのねん。
つづく...
あおむし
その紙を覗き込んで読んでみると「○○眼科」と書いてあった。
んんん??それ、どこかで見たことあるゾ...。あ、そうそう、確かウチのオババが、そこの眼科の診察券持ってたゾ。ということは、その「○○眼科」はウチの近所にあるハズである。何しろオババの行動範囲は極めて狭く、歩いてそう遠くへは行かれないハズだかんナ。
つづく...
あおむし
それに、おいらその「○○眼科」の看板を、家の近所で見た覚えがあるのヨね。そんでもって、もしおいらの記憶が正しければ、多分その「○○眼科」の場所を、おいら知っていると思うのヨ。
つづく...
あおむし
んでも、この「○○眼科」が、おいらの思っている所だったとして、(うろ覚えなので、確信が持てなかったのねん)このオネーチャンが最初に紙に書いた目的地「上高井戸」とは、またエラくかけ離れた場所になるのヨね。
一体彼女は、「上高井戸」と「○○眼科」のどちらに行きたいんだろうか???
つづく...
あおむし
おいらがうーーーん、と真剣に考え込んでいる間中、彼女はただただ自分の置かれた、のっぴきならない状況をひたすら一生懸命説明をしている...中国語で...。
ごみんなさいね、んでも、おいら中国語はサッパリ分からんのヨ、と思いつつ、筆談&ゼスチャーで、「おいらも同じ方向に行くところだから、途中までご一緒しましょう」と伝えようと試みたのねん。
つづく...
あおむし
そしたら、なんとなく分かってもらえたようで、おいらと中国人のオネーチャンは、一緒に歩き出したのだった。おおおお、どうにか通じたゾ。何とかなるもんだなああ、と思っていたんだけれども、ところがオネーチャンに呼び止められた場所が、目的地までは歩いて最低でも10分〜15分位はかかりそうな位置だったもんだから、きっと歩けど歩けど目的地にたどり着かないことを不安に思ったんだろうなああ。彼女は中国語でしきりに何かを喋り続けているのヨ...。
つづく...
あおむし
さあああて、困った。
オネーチャンは延々と喋り続けているんだけれども、言ってることはサッパリ分からないわ、彼女の目指している場所も(「上高井戸」なのか「○○眼科」なのか)定かではないわでは、助けるどころか返って彼女を困らせ兼ねないではないかああ。おいらは、ただ純粋に人助けをしたいだけなのに...。
つづく...
あおむし
ん?ちょっと待てよ。
我が家には、約1名程エセ中国語を話すオバハンがおるではないか!そのオバハンは、今から10年かそこら前から、学生時代に第2外国語の授業でやっていた中国語を、再び勉強し始めていたのヨ。何でまた急に中国語を始める気になったのかというと多分...自分の子供達が受けたTOEICを含む数々の英語力を測るテストの点数を聞いて、英語ではコイツらには勝てんと思ったからではなかろうか。
つづく...
あおむし
んま、とにかく、おいらの中ではそうだ、そうだ、それがイイてなことになった。あのオバハン、つまり女王様なら、きっとおいら達をこの難儀な状況から、救い出すことができるのねん...上手く行けば、だけど。
つづく...
あおむし
おいらの家は、ちょうど「○○眼科」に行く道すがらだったし、ウチに寄って女王様に助けてもらおう。そんでもって、仮に女王様のエセ中国語が役に立たなかったとしても、そん時はオババの診察券を見れば、少なくとも「○○眼科」の位置だけは正確に把握することができる。
つづく...
あおむし
ンなワケでおいらは、道中サッパリ理解不能な言葉を、延々と喋り続けていたオネーチャンを家の前まで連れて来て、「今、プウトンホア(標準語、中国語では北京語のことになるらしい)を話せる人を呼んで来るから」と(日本語で)言って、門の中に入り玄関の扉方向に1歩、2歩と近付いたのねん。
つづく...
あおむし
そしたら、彼女の表情が一瞬にして急にこわばって、「何!?どこに連れてくの!?」てな雰囲気になってしまった...。
そら、そうだろうとも。彼女にしてみれば、目的地は「○○眼科」なワケで、そこに連れて行ってくれるものかと思って付いて行ってみれば、このチンチクリンな日本人は、どこぞの民家に入って行こうとしているではないか。しかも、その日本人(つまり、おいらネ)には、自分の喋っている言葉が全く通じず、それも見知らぬ外国の日もとっぷり暮れた暗闇の中で、だ。誰だって普通警戒するヨなああ。
つづく...
あおむし
とにかくおいらは急いで、女王様がいると思われる台所へと走り、おおむね2秒程でザックリと状況を説明し、「かくかくしかじかなので、助けてくれえい」と彼女に助けを求めた。ここで女王様登場。スタスタと家の外に出て行った女王様の後に続いて、おいらも表に出てみると、彼女は既においらが連れて来た中国人のオネーチャンと、何やら中国語でやり取りしている模様だった。
つづく...
あおむし
おおおおお、エセ中国語も意外と捨てたもんでもなかったのかもしれん、と感心したのも束の間。女王様が「何を言ってるのか分からん」と言うではないかあああ。
ぬわああああんやとおおお!?「何言ってるか分からん」って、どういうことヨオオオ?ンだよ、しかも早くもギブアップかよ、情けない...。
つづく...
あおむし
仕方ないので、おいらはその日の夕刻から、それまでの経緯を事細かに女王様に説明した。このオネーチャンにいきなり中国語で呼び止められたこと、漢字を駆使しての筆談によって、彼女が「上高井戸」もしくは「○○眼科」を目指しているであろうこと、全部説明してやったのねん。
つづく...
あおむし
おいらの詳細な説明(日本語)を聞いて、女王様はようやく状況が飲み込めた様子で、それにオネーチャンの中国語の説明も加わって、やっと女王様にも、オネーチャンの言わんとしていることが、どうにか伝わったようだった。
つづく...
あおむし
女王様は、「○○眼科」の位置を知っていたようで、そんならアタシがそこまで連れてってあげるワ、てなことになったのねん。なあああんだ、結局おいらの思ってた場所だった、ということが分かったところで、家から歩いて3分と離れていなかった「○○眼科」に向かって、おいら達は3人揃って歩き出した。
つづく...
あおむし
無事に「○○眼科」の前に到着すると、中国人のオネーチャンはウチらに向かって何度も手を合わせて、「トウシェ(多謝)、トウシェ(多謝)」とお礼を言った。「トウシェ」という彼女の言葉から、「多謝」という漢字がすぐに頭に浮かんだので、これはおいらにも意味が分かった。ま、つまり、「サンキューベリマッチ」の意味であるということを、多分以前にどこかで見聞きしたんだと思う。
つづく...
あおむし
それから彼女は「ツァイチェン(再会)」、これはおいらも常識で「またお会いしましょう」つまり、「さようなら」という意味だと知っていたんだけれども、そう言ってオネーチャンは「○○眼科」の角を曲がると、暗闇に消えて行ったのねん。
つづく...
あおむし
中国人のオネーチャンの後ろ姿を夜の闇に見送ってから、おいらは女王様に、彼女はしきりに中国語で喋っていたようだったが、一体何と言っていたのかと聞いてみた。すると、「自分の言いたいことは(中国語で)言えるけど、相手の言ってることは分からん」とのお答え...。
つづく...
あおむし
おおいいいいっっっっ!!!それぢゃあ、オババと変わらないではないかああっっっ!!2、3日前の晩、おいらがオババに、おいらの言ったことが聞こえたかと尋ねたらオババめ、他人の言うことなんぞ聞こえなくても、自分の言いたいことさえ言えればそれでイイのぢゃ、と抜かしやがったのヨ。
つづく...
あおむし
この人達と来たら、他人の話は全く聞かないと来ている。どないなっとんねん、まったく。んでも、何しろ自分達の母国語である日本語でもこんな調子だから、まあ、女王様が中国人のオネーチャンの言ったことを全く聞いていなかったとしても、仕方ないのかもしれん。
つづく...
あおむし
んまあ、そんな、当てにならない女王様の聞き取り力によれば、オネーチャンは本日泊めてもらう予定だった、友達の家に向かう所だったそうで、「○○眼科」はその友達の家にたどり着くための、目印だったんだそうだ。
つづく...
あおむし
中国人のオネーチャンは「○○眼科」から友達の家までの道のりは、どうやら知っているらしかったのだけれども、どこかから車(おそらくタクシー)に乗ったところ、また運悪くどこか手前の方で下ろされてしまったようで、あいにく辺りもすっかり暗くなってしまって、土地勘のない異国の地で、迷子になってしまったらしい、とのことだった。
つづく...
あおむし
そうか、そうか、それは難儀だったなあああ、ネーチャン。んでも、無事に「○○眼科」に着けて、ホントに良かったよなあああ、とささやかな幸福を噛み締めていたら、女王様が一言。
「あの子、日本に来てまだ2日目なんだってよ」とのたまった...。
つづく...
あおむし
ぬ、ぬわあああにいいいいっっ!?2日目って、マジかよっっっ???日本に来てまだ2日目で、言葉もロクに分からないのに、1人で歩き回るか普通!?チャレンジャーやなあああ。泊めてあげるハズだった友達は一体何してたのヨ?んだって、来日2日目なのヨ。ていうか、迎えに行ったれよ、友達。
つづく...
あおむし