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11/01  あおむし家の人々26

あのなああああ。

おいらは自分の中にほんの少し残っていた、ありったけの忍耐力を総動員して、オババの説得を試みた。

そもそもオババが手紙を書くことなんて無いし、仮に100歩譲って、誰かに手紙を書かなきゃならんような状況にもし遭遇したとしても、その時にはおいら喜んで、何枚でも必要なだけ便せんをあげるから、ワザワザ新しい便せんを買わなくてもイイんではないのか?と。大体、もしそんな状況が発生したら、手紙を書くのはおいらであって、オババではないんだかんね。

つづく...

あおむし

11/02  あおむし家の人々27

今回はどうにか、オババを諦めさせることに成功した。

ところが7日目、オババは新しいサインペンを2本買って来い、と抜かしやがったのねん。覚えておかなければならんコトを書き留めるのに使っていた古いヤツは、インクが乾ききって書けなくなってしまったのだ、と言う。

散々脳ミソをひねくり回した結果、ちゃんとキャップを閉めておけば、そんなコトにはならんのヨと彼女に言っても無駄なのねん、ということに気付いたおいらだった。

つづく...

あおむし

11/03  あおむし家の人々28

仕方なく、おいらは出掛けた帰り道に100円均一、コンビニ、スーパーなんぞに寄ってみたんだけれども、オババがご所望になったサインペンは、どこにも売っていなかった。

前使っていたヤツは、一体どこで買って来たのヨ?と思いつつ、おいらはアチコチ探し回ってようやく、駅の近くの文房具店でサインペンを見つけることができたのねん。何しろ、あの我がままオババは、頼んだものと丸っきり同じ物を買って来ないと、まったく受け付けないから弱ってしまうのヨね、ほんとに。

つづく...

あおむし

11/04  あおむし家の人々29

おいらは、近い将来またオババがサインペンが書けなくなった、と文句を垂れることを想定して、そのサインペンを3本購入し、重い足を引きずって家路についた。

3本のサインペンの内1本は、ストックとして自分の部屋にキープしておいて、おいらはオババに残りの2本のサインペンを渡した。すると受け取るやいなや、あたかもそれが当然のコトであるかのように、オババは次の要求を口にしやがった。

んでも、おいら、もうダメだった。毎日オババの「お願い買って来て攻撃」に振り回されて、気がふれそうだったのねん。

つづく...

あおむし

11/05  あおむし家の人々30

オババのプライドを満足させるためだけの、「お願い買って来て攻撃」に突き合わされること1週間、おいらもう限界だったのねん。

しかもオババに細々としたモノを買って来させられて来たこの1週間、おいら別にそれだけをやってたワケではないのヨ、ねえ。

つづく...

あおむし

11/06  あおむし家の人々31

この間、おいらは、このホームページのためのコンテンツを書き、自分で食事を用意し、オババの服を洗濯し、部屋を掃除し、オマルを掃除し、爪を切ってやり、オババの薬をもらいに医者に行き、人に会ったり、このサイトで公開するための写真を撮りに行ったりし、そんでもって女王様が快適な生活を送れるように細心の注意を払いながら、毎日生活して来たのヨ。

1円の稼ぎにもならんのに、一体おいらはなんでこんなに忙しいのヨ、え?おいらの時間はどこへ行ってしまったのヨ?おいらの人生はどうなってしまうのヨ、えええっっ!?

つづく...

あおむし

11/07  あおむし家の人々32

おいらは疲れ切ってしまい、忍耐力もすっかり底を突いてしまったのねん。

遂においらの不満が爆発。オババとケンカになってしまった。と言ってもボケたオババ相手では、タダお互いに不満をブチまけ合うだけで、実はケンカにもなってなかったんだけどね。

つづく...

あおむし

11/08  あおむし家の人々33

ちょっとミケコ、聞いてんの?

「Zzzzz ...Zzzzz ...。」

コラアッ、ミケコオオッッ!

「Zzzzz ...んん?ああ、ハイ、ハイ、聞いてるよ、聞いてるよお。

つづく...

あおむし

11/09  あおむし家の人々34

「んだから、ボケちまった婆さんの要求に応えるのに、くたびれちまったって話だろ?」

そう、その通り。

「んで、それがお前さんの風邪っぴきと、一体何の関係があるって言うのさあ?」

だって、あんなに疲れてるところに追い討ちをかけるように、他にも色んなことが重なったのヨ。

「そうだろうとも。今年のF1シーズンはアロンゾが優勝、ルノーがコンストラクターズ優勝ってことで終わっちまったし、皇帝シューマッハは引退しちまったし、ディープインパクトは凱旋門賞で薬物違反になっちまったもんねええ。」

つづく...

あおむし

11/10  あおむし家の人々35

「他にもあるよ。日ハムが今年の日本シリーズ優勝して、新庄は引退しちまったし、海の向こうのメジャーリーグではカージナルズがワールドシリーズを制覇して、日本では阿倍晋太郎が新しい総理大臣になって、8月にロシアにだ捕されたカニ籠漁船の船長は解放されて、んでも今度は別の日本の漁船がロシアに捕まって、アタイの夏毛は抜けちまって、代わりに今は冬毛に覆われてるんだよ。お前さんが、身の上に降り掛かった災難をウジウジ嘆いている間に、世の中では色んなことが起こってたんだよ。」

つづく...

あおむし

11/11  あおむし家の人々36

ちょっとお、おいらの話最後まで聞く気あんの?

「もちろん、あるともさあ。聞いてあげるから、さあ、話続けな。(アタイは昼寝の続きをするから)

それぢゃあ、遠慮なく。あれはオババの「お願い買って来て攻撃」の7日目だったのねん。おいら女王様に、翌日彼女のアジサイの植え変えをするって宣告されたのヨ。

「アジサイとアンタの風邪と、どう関係あんのさ?」

それを説明するには、少しばかし時間を遡らなくちゃならんのヨね。

「(ああああ、また始まっちまったよお...)」

つづく...

あおむし

11/12  あおむし家の人々37

殿と女王様は、おいらん家の庭に植わってるアジサイを引っこ抜くかどうかで、言い争いになったらしい。どうやら、アジサイの隣にあるブドウの木に、今年あまり果実が実らなかったのはアジサイのせいだ、と思い込んだ殿の偏った非論理的な発想から口論に発展した模様。

どうも殿は、アジサイさえどうにかして無くしてしまえば、全てが上手く行きブドウの木にはたわわに果実が実るのだ、と思い込んでいるようだったのねん。

つづく...

あおむし

11/13  あおむし家の人々38

んでも、そんなコトは、断じて女王様が許さなかったのねん。

それは女王様がそこに植えたアジサイだから、「アタシの」アジサイなのだと彼女は主張し、しかもそれを引っこ抜いて枯らしてしまうのは嫌だから、我が家の勝手口の脇に「彼女の」アジサイを移植できるように穴を掘っておけ、と女王様は彼女の夫にお命じになったのヨ。

つづく...

あおむし

11/14  あおむし家の人々39

殿はその命令に従って、すぐさま穴ボコをこしらえたのねん。んでも、カラッポの穴ボコが空いたままの状態がしばらく続いたので、おいら、女王様はこの先一生植え変えなんてしないんではなかろうか、と思っていた。

そしたら、ある日突然思い出したのか、植え変えを手伝うようにと、女王様は今度はおいらに命じたのねん...。

つづく...

あおむし

11/15  あおむし家の人々40

そんなワケで、おいらは翌日の午後いっぱいかかって、女王様のアジサイの植え変えをした。

根っこからアジサイを掘り起こすのに、ずっとしゃがみ込んだ状態での作業になったんだけれども、女王様が、絶対に根を傷つけないように細心の注意を払えと言うもんだから、ひどく根気の要る骨の折れる作業になったのねん。

つづく...

あおむし

11/16  あおむし家の人々41

絶対に根を傷つけないように...って、そんなの無理に決まってんだろッッ!だって、アジサイの根は四方八方に向かって伸びていて、中には地面の奥深〜くにまで続いているのもあるのヨ。どこまで続いているのか、その端っこを見つけるだけでも何日も、ヘタしたら何週間もかかるかも知れんではないかあ。

しかもなあ、アジサイの根っこは土や何かとこんがらかった塊になっていて、その中には他の植物の根っこと思われるものもあったりするのヨ、ねえ。そんな中から、一体どうやってアジサイの根っこだけを、切ったり傷つけたりせずに外せって言うのヨ、え?

つづく...

あおむし

11/17  あおむし家の人々42

そんなもの、プロの庭師だって女王様の仰せの通りになんてできるワケないだろ、とおいらは思った。

なので、アジサイの根っこを全く傷つけずに掘り起こすなんてことは、「絶対に不可能だ」とおいらは自分で勝手に判断し、女王様の無茶苦茶な要望は忘れることにしようと自分に言い聞かせつつ、必要に応じてブチブチ根っこをブッタ切りながら、作業を続けたのねん。

つづく...

あおむし

11/18  あおむし家の人々43

もしもアジサイが、この植え変えを生き延びられなかったとしても、それはそれで仕方ないんではなかろうか。大体、おいらのアジサイでもないから、別に枯れようが何しようが、どうでもイイって言えばどうでもイイのヨね。ちょっと、無責任過ぎますかね?んでも、オババの「お願い買って来て攻撃」で心身共に疲れきった、この時のおいらと同じ状況に置かれたら、ほとんどの人が同じことを言ったんではないかと思うゾ。

つづく...

あおむし

11/19  あおむし家の人々44

そもそもなあああ、アジサイを植え変えると言い出したのは、女王様なのヨ。そんでもって、ブドウの木を守るためにアジサイを引っこ抜く、って言い出したのは殿だったりするのヨ。おいらは、この2つの植物のいずれとも全く何の関係も無い、善意の第三者なのヨ、え?

仮にアジサイもしくはブドウの木に、この先何か起こるようなことがあったとしても、そのことで彼等がおいらを責めるようなことがあっては、イカンのではないかと思うおいらだった。

つづく...

あおむし

11/20  あおむし家の人々45

しばらくの間、お便所座りのような格好で地面をほじくり返しながら、アジサイの根っこと格闘した結果、女王様も「こりゃダメだ」と思ったのか、全体を掘り出すためには多少根っこを切るのもやむなし、とのお達しが出た。

だろうと思ったヨ。ようやく気が付いたか。って言うか多分、根を傷つけないようにする根気の要る作業に、女王様自身がそろそろ嫌になって来た頃だったんでしょうけどね。

つづく...

あおむし

11/21  あおむし家の人々46

120センチ程の高さになるまで立派に育ったアジサイを、根っこから掘り起こすのには、たっぷり2、3時間はかかっただろうか。それでも、ようやく地面から掘り出すことが出来た。

ところが、だ。その後には更なる肉体労働が待っていたのねん。

アジサイの植え変え先の穴ボコまでは、家の周りをぐるっと1周して行かねばならないのだけれど、おいらがアジサイをえっちら、おっちらと担いでそこまでたどり着くと、そこには女王様が...新しい穴を掘っているではないかああ...。一体全体、何をやっているのヨ、このオバハンは?

つづく...

あおむし

11/22  あおむし家の人々47

あのなああああ。アジサイを植えるために、おおむね3週間程前に殿が穴を既に掘ってあったのだけれども、オバハン、それとは別に新しい穴を掘っているではないか。

すぐそばにデッカイ穴が口を開けているにも関わらず、なんでまた穴を掘っているのか、と念のために女王様に聞いてみると、「あっちの穴は場所が悪い」と言う。そこの場所では、日当たりが悪いし、風通しも良く無いからダメなのだ、と抜かしやがった。

つづく...

あおむし

11/23  あおむし家の人々48

もしもし、奥さん。先に掘られた1コ目の穴の場所と、今あなたが掘ってらっしゃるその新しい穴の場所と、おいらには大して条件が違わないように見えるんですけど、気のせいでしょうか?60センチも離れてないように見えますけど...。

それでも女王様は2コ目の穴を掘り進める手を止めようとしないので、おいらは仕方なくすぐ脇に盛られていた土で、1コ目の穴を地面と同じ高さまで埋め戻し、そんでもって今度は女王様が掘っている2コ目の穴が、アジサイを植えるのに十分な大きさになるように、スコップで土を掘っては掻き出すという作業に従事するハメになった。コレがまた、ケッコウな肉体労働なのねん。

つづく...

あおむし

11/24  あおむし家の人々49

2時間以上、お便所座りをしながらアジサイを掘り出して、すっかり疲れているってのに、また穴掘るのかヨ...。何だかおいら、鉱夫になれるような気がして来たゾと思い始めた頃、ようやく女王様の「もう、イイだろ」というお許しが出た。

2人がかりで、アジサイを掘った穴に据えると、女王様がアジサイを倒れないように支えている間、おいらは今掘り出したばかりの土で、穴を埋める作業に入った。(って、肉体労働はまたおいらなのか...。)

つづく...

あおむし

11/25  あおむし家の人々50

つまり、肉体労働は全部おいらがやるってワケね。まあ、そんなコトは最初から分かってはいたんだけどね。穴が土で埋まり、アジサイもどうにか自力でそこに立っていられるようになると、女王様は辺り一面が水浸しになる位たっぷりと水をやった。「これで作業は終了」んでもって多分「アタシの責任はこれで果たしたワよ」とでも思ったんだろうなああ、女王様は水をやり終わると、サッサと家の中に引き上げてしまったのねん。

つづく...

あおむし

11/26  あおむし家の人々51

出たヨ。どーせ、そんなコトだろうと思ってましたヨ。いつだって女王様は、後始末のコトなんて考えたコトもないんだから。

アジサイを掘り起こすのに悪戦苦闘した我が家の庭は、兵(つわもの)どもが夢の後で、ひどい散らかりようだった。んでも女王様には、散らかった庭の後始末をしようなどという、殊勝(しゅしょう)な心掛けが一切ないことが、おいらには分かっていた。その証拠に、オバハン、とっとと家の中に引っ込んでしまって、再び出て来る気配が全くないではないか。

つづく...

あおむし

11/27  あおむし家の人々52

ンなワケで、おいらは仕方なく疲れ切った身体を引きずって、散らかった庭を片づけに行ったのねん。

おいらは土で汚れた飛び石をほうきで掃いて掃除し、アジサイを運び易くするために女王様が切り落とした、枝や葉っぱを拾って片付け、それからシャベルやらスコップやら植木鋏やら、使ったまま置きっぱなしになっていた道具を、全て元あった所に片付けた。

つづく...

あおむし

11/28  あおむし家の人々53

アジサイの植え変え作業は、その日の午後イチで始めたんだけれども、おいらが片付けも含めて全ての作業を終了する頃には、辺りはすっかり暗くなって、ポツポツと雨が降り始めていた。そしてその頃にはおいら、もう、体中が痛くて一歩も動けません、だったのねん。

つづく...

あおむし

11/29  あおむし家の人々54

その夜、おいらは泥のように眠り、2度と起きないんではないかと思った。おいら、女王様とオババのお陰で疲れ切っていたから、それも案外悪く無いかもって思えて来て、本当にこのまま2度と目が覚めなくても、別にま、いっか、という気になっていたのねん。

その晩は、いつもだったらウルサくて眠れないハズの、隣の女王様の部屋から聞こえて来る、「部屋に居ようが居まいが24時間いつでもつけっぱなし」の大きなラジオの音も、全く気にならなかったのねん。

つづく...

あおむし

11/30  あおむし家の人々55

今日はホントに疲れたゾと、おいらをすっかり消耗させた今日という1日が一体どうやって始まったのか、おいらは寝ながら思い出そうとしていた。ところが心地よい眠気で意識が遠のく中で、おいらは何か思い出してはいけない記憶に触れてしまったような気がした。それは、丸っきり同じような心地よいまどろみの中で感じた、クラクラするめまいに似た感覚と頭部のかすかな痛みで、その日の朝早く、おいらが意識と無意識の境をさまよっている時に感じたものだった。

つづく...

あおむし